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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)3604号 判決 1957年2月26日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意は事実誤認の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人上山義昭の上告趣意第一点について。

第一審判決は、被害者久子が判示の日時、すぐその場で長女道子を殺害するためその腕を掴んだものでなく、被告人の所為は急迫不正の侵害を防止するため已むを得ないものとは認められず、而も被害者久子の意思に反し、判示のとおり暴行を加え久子をしてショック死するに至らしめた趣旨の事実を認定し、証拠として所論検察官に対する被告人の供述調書のほか被告人の自供以外の多数の書証を掲記したのに対し、原判決は、第一審判決の挙示する証拠によって十分同判決判示のとおりの事実を認定しうると判断したこと記録上明瞭である。従って右事実認定は被告人の自白を唯一の証拠としたものでないのみならず、犯罪の客観的要件に関し被告人の自白以外の証拠がある以上、正当防衛に関する被告人の意思の如き犯罪の主観的方面に属する部分は被告人の自白だけでこれを認定して妨げないこと当裁判所数次の判例の趣旨とするところであるから、所論違憲の主張は前提を欠き採用することができない。

同第二点について。

第一審判決判示のような状況の下に判示のような態様においてなされた被告人の判示所為はたとえ被害者が被告人の妻であってもその意思に反する重大なものであること明らかであって刑法二〇五条一項の犯罪構成要件たる暴行に当る違法のものというべきである。原判決がこの点についてした所論の判示は相当である。

原判決は第一審判決挙示の中舘久平、前高英共同作成の鑑定書により被告人の久子に対する頚部扼圧の暴行が間接的誘因となり同人のショック死を惹起した事実は明らかでその間に間接的ながら因果関係が認められると判示して第一審判決のこの点に関する判断を肯認したこと記録上明瞭である。そして、傷害罪の成立には暴行と死亡との間に因果関係の存在を必要とするが、致死の結果についての予見を必要としないこと当裁判所の判例とするところであるから(昭和二六年(れ)七九七号同年九月二〇日第一小法廷判決、集五巻一〇号一九三七頁)、原判示のような因果関係の存する以上被告人において致死の結果を予め認識することの可能性ある場合でなくても被告人の判示所為が傷害致死罪を構成するこというまでもない。所論違憲の主張は憲法のいずれの規定に違反するかを示さないから上告適法の理由とならない。論旨はすべて採用できない。

同第三点は、単なる事実誤認及び法令違反の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 高橋潔)

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